現在のゲーム業界を取り巻く地獄~なぜゲームは完成しないのか~
現在のゲーム業界を取り巻く地獄~なぜゲームは完成しないのか~
はじめに
ここ最近知り合いや様々なゲーム会社から「ゲームが完成しない」という話をよく聞く
これはなぜゲームが完成しないのか?という話をブームにのってダラダラと書いていくポエム記事です
ちょっと長いので「なぜゲームが完成しないのか?」が気になる人は前半は読み飛ばしても構いません
お前は誰
7,8年くらいの間主にスマホゲームを作っているゲームプレイプログラマーやってます。
なぜこのポエムを書こうと思ったかというと、私は人よりプロジェクトが死ぬ様(リリース出来ずプロジェクトクローズorサービス終了)を人より多く観測しているからです。
具体的に言うと今まで7本のプロジェクトが死ぬ様子をこの目で見てきており、知り合いの業界歴20年とかのゲームプログラマーと話しても精々1,2本しか経験したことある人がいないので人より多少熱を込めて現場目線込みで語れるかなと思ってます。
現在のゲーム業界
現在の世界のゲーム業界市場規模は前年比19.6%増で約18兆円(※1:グローバルゲームマーケットレポート2020より)といわれており、2021年には20兆円を超えると予想されています
また、ゲーム業界の市場規模は近年急上昇しており、10年前と比較すると倍以上の市場規模となっています
(※2:ファミ通ゲーム白書2020より)
さらに、ゲーム業界は2025年には約28兆円以上(※3:BCC Researchより) になると予想されており今後益々巨大な市場になるであることがほぼ確実となっている成長産業、それがゲーム業界です
GAFAでもゲーム開発は難しい?
そんな成長産業である市場に巨大企業の筆頭であるGAFAも例外なく参入してきています
しかし先日、立て続けて2つの残念なニュースが流れてきました
開発中止が続くAmazonのゲーム開発部門「Amazon Game Studios」はなぜ失敗したのか?
Google、Stadia向けの自社ゲームスタジオ閉鎖を発表。これ以上は開発コストをかけられず、今後はサービス提供に専念
Amazonのほうは去年か一昨年に大規模のレイオフが行われたときに話題になりましたが、GoogleのStadia向けAAAタイトルはクラウドゲームの目玉といわれていただけに業界内での反響も大きいように見えます。
AmazonGameStudioがリリースできたゲームは2018年発売の「The Grand Tour Game」のみ、それ以外は残念ながら開発中止に追い込まれているようです
驚くことにAmazonGameStudio単体で年間5億ドル(約520億円)もの予算を費やしていることがニュースで明らかになり、数年間で費やした金額は一体どれほどの金額になるのか想像もできません
その金額を踏まえてGoogleのニュースを見ると、記事内で「ロから完成度の高いゲームを作るには長い歳月と多くの投資が必要で、急激にコストが増大していった」と言及されているのも頷けます
AmazonやGoogleは優秀な人材を集めることができなかったのでしょうか?お金が足りなかったのでしょうか?
いいえ、そうとは思えません
優秀な人を集めてお金をつぎ込んでもゲームが完成するわけじゃない
AmazonやGoogleは言わずと知れた世界有数の巨大IT企業です。お金も人材も多くのゲーム会社より圧倒的に豊富で優れているでしょう。
しかし、それだけではゲームは完成させることはできないことはこの2つの企業が証明してくれたと言っていいと思います。
こういった話は別にAmazonやGoogleでしか起きていないことではありません、日本の様々な企業でも起きていることです。
日本のゲーム会社の事例
例えば「グランブルーファンタジー」「アイドルマスターシンデレラガールズ」「プリンセスコネクトRe:Dive」など数多くの人気スマホゲームを持つCygamesは代表的です
Cygamesの「ウマ娘」は事前登録から3年を経てついに今月リリースされる見込とされており、記憶をたどるとたしか初出は2016か2017年前後に初お披露目があった気がします。そして2018年に事前登録まで行っているにもかかわらず、約3年も経過…その過程で担当PがCygamesを退職するなど波乱万丈な開発だったことは想像に難くありません
開発にかけた期間は予想ですが、企画段階も含めて5,6年でしょうか?期間を考えると開発費は数十億はいっているはずです。
他にも同社はプラチナゲームズと共同開発で「LOST ORDER」を発表していますが、クローズドβテストを行った後の続報が全く聞かないのでおそらく開発中止になっているとみていいのではないでしょうか(確か女性向けゲームも近いタイミングで発表していたはずだけど気づいたら消えていた)
他にも「GRANBLUE FANTASY Relink」は初出であるプレスリリースの2016年から6年経て2022年にリリース予定とされています。
Cygamesに限った話ではありません、スクウェアエニックスの「インフィニティ ストラッシュ ドラゴンクエスト ダイの大冒険」はプレスリリースしてから約半年後の2020年末に発売日はだいぶ先であることを発表しています
ダイの大冒険は今アニメ放送をしていることを考えても、放送期間中に発売したかったことは間違いないでしょう。にもかかわらず「だいぶ先」と明言していることからもアニメ放送に間に合わず、しばらくリリースされることはないのは確実だと思われます。
Cygamesもスクウェアエニックス(開発はゲームスタジオ)も非常に人材が豊富でノウハウもあり、開発資金も潤沢な大きなゲーム会社です
これらのタイトルを開発するのにお金を投入して新たに人材を集めて開発に注力したことでしょう。しかし全てが上手くいくとは限らない結果なのは明らかです。
ここまでを踏まえて考えても、ゲームを完成させることが今まで以上に難しくなっているというのは目を逸らしてはならない現実といっていいでしょう、ノウハウがないAmazonやGoogleが苦労するのは必然といえます
気になった方は上場ゲーム企業(特にスマホ)のここ数年のタイトルリリース数を比較してみてください。明らかにリリース頻度が落ちていることが観測できます。
ゲームが完成しない理由(主観)
ではお金もあってノウハウもあるゲーム会社がリリースできない理由とはなんなのでしょうか?
正直、デスプロジェクトソムリエの僕でも理由を完全に理解することは出来ていません。しかし、その中でいくつか共通のパターンがあるように思えるのでそれらを紹介します。
スタープレイヤーだけいても仕方がない
お金があって成長中の会社では特に陥りがちなのですが「あの有名タイトルを手がけていた〇〇さんが入社!」といった話を聞いたことがないでしょうか?
たしかに優秀な人材を集めることは重要なことですし必要です。しかし、人間は万能ではないので実はそのスタープレイヤーである有名クリエイターが活躍できていたのは無名の副官がいたり誰かが阿吽の呼吸で本人の自覚さえなく手助けされていて初めて発揮できる優秀さであることが多々あります。
有名なクリエイター達を集めて「ボクが考えた最強のチーム」が上手くいかない事が多いのは、そのクリエイター達を支えていた多くの無名な開発者を見ようとしてないところだな~
— yokotaro (@yokotaro) January 3, 2021
と思った正月。
※特定の製品の事ではありません。
また、人を一気にたくさんかき集めると会社やチームの文化や手法が全く統一されておらず、ゲーム開発とは全く関係のない事柄に時間を取られることになります(Version管理ツールは何を使う?チャットアプリは何を使う?プロジェクト管理ツールは?それの予算はどうする?稟議は誰が出す?などなどなど)
考えうる解決法
このケースで躓く場合、往々にしてチームビルディングを甘く見ているのが原因と言っていいと思います。
スタープレイヤーを支える副官も一緒に引き抜くことが出来なかったのなら、誰かがそれの変わりをすればいいのですがそれは一朝一夕で上手くいくものではありません。当然それを見込んだ開発期間を取れるように動きましょう。
それが出来ないなら、プロジェクトのリーダーが強いリーダーシップを発揮して(曖昧)チーム文化を根付くように声を発し続け「このプロジェクトはなにを大事にしているのか」「このプロジェクトはなにを目指しているのか」などを強く訴えて一つの文化を持ったチームを作っていくことを意識していくしかありません。
これを甘く見ていると経営層からは「人とお金は渡したのに成果が出ない、なぜだ」といわれたり、チームメンバー間で「あの人は駄目だ」的な陰口が横行します。
〇〇億を扱う経験のあるPやDの不在
前述したとおり、ゲーム業界の市場規模はこの10年で倍以上に膨れ上がっており、それは今後も加速していきます。
そうなると同然のことながら扱う金額も大きくなるということです。しかし、10年前は精々が開発費1億~2,3億の世界だったのに、今ではコンシューマもスマホも10億~30億のような規模になってきています。
ほんの10年前まで(PS2・NDS)は1本のゲームソフトの開発にかかるスタッフ人数は10人から20人で開発期間はおよそ1年というプロジェクトは非常に多かったです。
— 松山洋@チェイサーゲーム (@PIROSHI_CC2) January 13, 2021
現在では100人から200人規模で開発期間は3年以上というプロジェクトも珍しくありません。
開発予算は10倍から20倍に膨らみました。
今のゲーム業界は高齢化していますので、主にお金を握っているPやDの多くは40~50代の方が多いです。そうなると、キャリアの大半の期間である3,40代まではそのくらいの予算規模で仕事をしていた人が大多数です。10年前に数十億の予算規模を動かしていた経験のある人はAAAタイトル経験者しかいませんので当たり前ですね。
扱う予算が増えれば当然ですがお金の使い方やプロジェクトの動かし方もかわってきます。今の大半のPやDの目線からすると、気がついたら急に渡される予算が増えて今までのやり方が通用しなくなってきてしまっているのではないでしょうか?(本人じゃないとわかりませんが)
人数が多くなれば情報伝達のやり方も変わってきます、噂話も横行し始めます、予算配分も考えなくてはなりません、経営側も判断を間違えてしまうかもしれません
考えうる解決法
どうすればいいんだろう?本当にわからない
すぐどうにかするというよりは小さいプロジェクトでPやDの経験を積み、チャレンジできる母数を増やせばどうにかなるかもしれない(ほんまか?)
ゲーム開発が好きな人間が指揮権を握っているとは限らない
もっとも悲しいケースです。AmazonGameStudioの記事を読んでいる限り、Amazonではこのケースに近いことが起こったことが推測されます。
急成長した企業だったり、他業種から参入してきた組織で発生しがちです。ゲーム開発の最大の難点はゴールが明確ではないことだと思います。
AmazonやGoogleがいままで開発してきたソフトウェアやサービスは何らかの課題がありそれらを解決するのがゴールですし大半の開発現場ではそれが正しいゴールだと思います。
しかし、ゲームは「面白いものを作る」のがゴールであり、その面白さは千差万別で正解は何一つありませんしトレンドもすごい勢いで変化していきます。
ゲーム開発はそれが前提なので結局はPやDに「このゲームはこれが面白い、誰が何と言おうと面白いんだ」という狂気にも近い信念がないと必ずぶれることになります。
ゲーム開発ってソフトウェア開発やサービス開発というよりも、もっと怨念のこもった何かなんだよな
— へっぽこ (@heppoko) February 2, 2021
AmazonとGoogleがなぜゲーム制作事業でうまくいかないのか?
— かえるD (@kaerusanu) February 2, 2021
2つともデータ分析型の企業なので、フィードバック速度が優先される文化形態になっていると思うが、ゲームはもう少し時間がかかるので、鍋蓋をパカパカされまくるとうまく行かない。
会社設立からわずか4年弱という短期間で「デスストランディング」をリリースしたコジマプロダクションの小島監督はデスストランディングの開発時で開発メンバーに”いいね”を理解してもらうことが難しかったと語っています
しかし、仕上がってみれば見事"いいね"の仕組みは上手くゲームデザインとうまくかみ合い、新しいゲーム体験を生み出しています。しかし、プロジェクトのお金を握っている人がゲーム開発に理解がない人間だとどれだけ説明したところで「他社はどうなの?流行のゲームは?」といわれるのは想像に難くありません。
Amazonでも似たような話が記事に書かれています
さらにフラジーニ氏が、さまざまなメディアで取り上げられている「今最も人気があり儲かっているゲーム」についての情報を集め、毎月の会議でその流行を追いかけるように指示するため、会議が脱線して現場が混乱することも日常茶飯事だった
考えうる解決法
解決方法はありません、指揮権を持っている人の認識が変わらないことにはどうしようもないのではやくそのチームを離れてください。
あとがき
いかがだったでしょうか。今回書いたことはあくまでも個人的見解であり、これらを回避すれば必ずゲームを完成させられるといったわけではありません。
しかし、間違いなくどのゲーム会社でも普遍的に起きている現象だと思うのでなにかの参考になれば幸いです。
ここまで見てくださった方ありがとうございました。
参考文献
※1: https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20201118033/
※2: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000007188.000007006.html
※3: https://www.value-press.com/pressrelease/258892